End roll of fools (Kadokawa Bunko)
A**ー
思わず引き込まれます。
古典部シリーズ第1作目の氷菓を読んだら、まあまあよかったので、第2作目のこれを読んでみた。何ですかね。たぶん、わたしの好きな文体何でしょうか。すらすら読め、読後感もよかったです。第3作目も読んでみようと思いました。米澤穂信作品は、シリアスものと、軽いものがあるようで、こちらは軽いものの方ですが、シリアスものも面白いので、交互に読んでます。
A**R
誰しもが経験する “青春” をミステリとして描く良作
青春の日常をミステリとして描く「古典部シリーズ」第四作である本作の主要モチーフは “映画”。古典部に “女帝” の異名を持つ二年生、入須冬実から依頼が舞い込みます。それは、脚本家が倒れたことで撮影が中断してしまった映画の結末を推理してほしい、というもので…。本作では、オープニングとエンディングがメタ的な視点で語られているのですが、そのための手法が優れていました。ちょうど映画のオープニングでキャストやスタッフの名前が出るように、本作の導入では物語を裏で “企画” し “キャスティング ”し “脚本” を書き “演出” する “プロデューサー” や “監督” たちの存在が示唆されています。また、物語を総括するエンディングも映画のエンドロールのようにも叙述されています。本シリーズでは毎作新しい手法が試されていますが、その使い方が物語内容と合致しているのが気の利いた演出だと思います。奉太郎の信条である “省エネ” が揺れ動く場面もあり、それによって、自己認識がまだ定まっていない青春時代に特有のアイデンティティの揺らぎを描いてもいます。大人になってから振り返ってみれば些細なことでも、十代のころはなによりも切実に思えたもの。そんな誰しもが有する経験をミステリの枠組みを借りて描写する、というのが本作の一番の魅力であるように思います。
し**し
愚者のエンドロール 個人的感想 (ネタバレあり)
<概要>舞台は文化系部活の盛んな神山高校。高校1年生、折木奉太郎を含む古典部のメンバー4人は、女帝と呼ばれる入須から、彼女のクラスで制作途中の映画の、「オチ」がどのようなものなのかを探るよう依頼される。途中までは映像が制作されているものの、脚本を担当する生徒が倒れてしまい、その後の展開が不明なまま、制作期限を迎えつつある、という状況下で、入須が用意した三人の「探偵役」の推理を奉太郎他古典部のメンバーが聞き、その推理の荒・穴を見つけていく。その過程の中で、「探偵役はやらない」と決めていた奉太郎が、最終的に「探偵役」をして、物語の結末を、推理するに至る。<登場人物>●折木奉太郎 「省エネ生活」を信条とする高校生。 「やらなくていいことはやらない。やらなくてはならない ことは最低限で」という言葉をよく口にする。 だが、高校入学時より、その推理力を発揮する機会があり、 いくつかの「日常の謎」を解決することになる。●千反田える 豪農(桁上がりの四名家の一つ)の娘で、お嬢様。 好奇心の塊で、「私、気になります」が、 事件発生の合図と言ってもいいほど。 記憶力に優れ、学力も高いが、根がバカ正直なため、 推理や発想力に欠ける。 「省エネ」を志す奉太郎を、事件に引っ張り込む、 役割を果たしている(物語の起点)。●福部里志 奉太郎の中学時代からの友人。 自称、データベース。 自分に興味のあることに関しては、膨大な知識を 持っている反面、興味のないことはからっきし。 奉太郎ほどではないが、人の名前と顔を憶えない (但し、ユニークな人物は別)。 本人曰く「データベースは、結論を出せない」 とのことで、事件に関する情報は出せてても、 奉太郎のような推理はできないとあきらめている。●伊藤マリカ 奉太郎の小学生時代からの知人。 里志のことが好きで、何度も告白しているが、 その度にはぐらかされている。 理を重んじ、そこから外れる者に対しては、 厳しい態度を取る。それは他人に限らず、 自分に対してもそうである。 漫画研究会にも所属している。●入須冬美 「女帝」と称される高校2年生。 今回、古典部に事件を持ち込んだ生徒。 病院院長の娘であり、クールで知略に長ける才女。 <感想>「日常の謎」を扱った古典部シリーズの2作目。殺人等が起きない分、よくあるミステリーよりも、一体どんな謎を提供してくれるのだろう、と毎回楽しみにしている。高校生にしては、皆頭が良すぎる……という個人的な違和感は置いておいて、日常の「事件」「謎」ということで、今回は「未完成の映画のオチ」を推理する……というアイディアが素晴らしい。三人の探偵役の話を聞き、その推理の穴を見つけていく過程で、奉太郎自身が、探偵役としてオチを考えるハメになる、という展開で終わりかと思いきや、最後で、事件を持ち込んだ入須の本当の意図が明らかになる……というところで、「おおっ」と感動してしまった。「事件の真相を解明する」というのが「前提」のようになっていて、その実、「事件の真相を作る」というのが、本当の狙いであり、「前提そのものを崩す」というミステリーの展開は、とても気持ちが良い。
ア**郎
Kindleで読むのはムリ!
アニメ化で評判になっていたのと電子書籍というものに興味があったのでスマホにKindleアプリを入れて1巻の『氷菓』とともにKindle版を購入しました。結論から言いますと、建物の見取り図を見ながら展開するような密室ミステリは電子書籍ではかなりムリ!ということです。紙の本では気軽にできる、前のページにある図面や登場人物が動く事件部分をこまめにチェックしながら本編を読み進める、という方法が電子書籍では難しいのです不可能ではありませんがかなり手間がかかり、実際ムリでした。じゃあどうしたのかというと、所有していたAndroidのタブレットPCにもKindleアプリをインストールし、こちらの端末で図面や前のページを確認しながらスマホで読み進めました、すごい無駄。電子書籍で密室ミステリはハードルが高いと思いました。あ、謎解き部分を自力で解くことに興味がなく、青春群像劇として読みたいという方にはまったく問題無いと思います、いい作品ですよね。前作『氷菓』も面白かったのでアニメ版も見てみたいですね。内容は良かったですが読みづらかったので☆4つです(Kindle版の評価です)
ヒ**ー
単純な謎解きでない、人の心を描いた日常ミステリー
『氷菓』『愚者のエンドロール』『クドリャフカの順番』『遠まわりする雛』『ふたりの距離の概算』『いまさら翼といわれても』と<古典部シリーズ>を全作品読み終わりました。本作品『愚者のエンドロール』では、主人公折木奉太郎が途中までしか完成しせず続きのシナリオが”失われた”自主制作映画の前半だけを観て、その中から犯人や犯行トリックの謎解きをして後半のシナリオ完成に貢献するというストーリーです。折木は与えられた情報から脚本を書いた本郷の真意を読み解くのですが、その際「あなたは特別よ」「自分の才能を自覚するべき」だと依頼人の女帝こと入須先輩にたきつけられます。しかし、これ以降ネタバレになるので詳細は伏せますが、彼は本質的に見落としてしまった部分があるのに後半の映画は完成し、それを不満に思う同じ古典部の千反田えるが「私は映画の結末はどうなってもよかったんです」「でも、気になることがあって、それに折木さんの出した結論は応えてくれませんでした」「もし、私が不満に思っているようにみえるなら、それが原因だと思います」と更に謎めいたことをいいます。だから、この作品の大半のページは入須先輩の依頼に応える折木という流れで進むのですが、最後のどんでん返しでやはり千反田の「わたし、どうしても気になるんです」が核心部分へと話を進めます。僕は個人的にはこの自主制作映画の前半が好きになれませんでした。そして、千反田もあるシーンで「ひゃっ」と小さな悲鳴を上げ、折木が「よくそこまで(映画に)感情移入できるな」とぼっそっと思うのですが、そのとき私が感じた違和感が、最後の最後にこのシナリオを書いた本郷の真意、更には千反田に「たぶん、私と本郷さんが似ていたからなんでしょうね」といって小説の最後を締めくくる台詞に関係があってとても泣かされました。そして、この最後の台詞はなぜ<古典部シリーズ>の作者がこうした日常生活のミステリーを書き続けているのか、という根本的動機ともつながっていて、読者でファンの一人である私の胸に滲みるのでした。とても余韻の残るいい小説だと思います。
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